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2008年02月08日

エッセイ、バチラーの周辺者たち

歴史文学エッセイ
~「銀のしずく降る降る…」、バチュラーの周辺者たち

□有珠のバチュラー記念館
 貧しくそして社会的にも恵まれないアイヌ民族を庇護し、彼らのために学園を建設したバチラー博士は「アイヌの父」と呼ばれ、有珠のアイヌに生れて博士の養女となった向井八重子は、後に渡英して英国式の教養を身につけた才女であった。伝道師として生涯を神に捧げて同胞の救済に当った八重子、彼女の歌集「若き同族(ウタリ)に」はアイヌ民族の苦しみを日常の折々に詠んだものである。
 八重子は「万葉集」の研究者で歌人・国文学者の佐佐木信綱や「アイヌ叙事詩ユーカラ」を世に紹介して知らしめた同じく国文学者の金田一京助らの知遇を得て、また、同じアイヌ歌人の違星北斗は平取聖公会での同士であり、その北斗が売薬の行商を行いながらアイヌの不遇を訴えた遺稿集の「コタン」は和人への告発に満ちていて、この平取でのバチラーらの活動は現在でも聖公会バチラー保育園として続いている。
 そして武田泰淳の「森と湖のまつり」は人種差別を底辺としたシャモとアイヌとの浪漫小説であるが、その中で『八重子さんはもとより謙遜なキリスト教徒でありますから、自分から、自分はイレスサポであるなどと、主張したことはありません。しかし私どもが考えると、彼女こそアイヌ同胞のイレスサポとも呼んでしかるべき、お姉様であります・・・』と語られている。

◆「若き同族(ウタリ)に」

 島々は 群れ居るなれど 他人の島 貧しきウタリ 寄るすべもなし
 亡びゆき 一人となるも ウタリ子よ こころ落とさで 生きて戦へ
 墓に來て 友になにをか 語りなむ 言の葉もなき 秋の夕ぐれ(逝きし違星北斗氏)
 言語学者 新村 出/北海の歌びと八重子バチュラー女子が、佐佐木金田一两先達の懇切によって初めて世に著はされようとする此の歌集は、女史のウタリにとつては、全く空前の試みではないのでせうか。その事が、女史及び其のウタリのために、單に慶ぶべきばかりか、言はば同族の「文學史」ともいふべき方面に特筆大著して然るべきはないのでせうか。
 
 友人にはプロレタリア作家で戦後に新日本文学会を創立した宮本百合子がおり、八重子の影響を強く受けた百合子は、アイヌ民族の悲惨な境遇を小説「風に乗って来るコロボックル」に著し、アイヌ部落での見聞を「親しく見聞したアイヌの生活」としてまとめている。
                                                  アイヌ保護学園寄宿舎
□知里幸恵の「アイヌ神謡集」
 バチラーの伝道師となった知里幸恵の叔母金成マツは八重子らとアイヌ伝道団を結成して布教活動を行っていた。旭川近文において祖母から口承文芸を受け継いだ幸恵はその資質を金田一に見出され、ユーカラの記録を始める。
 その集大成「アイヌ神謡集」の出版のために寄宿していた金田一宅で、校正を終えたばかりの大正11年9月に持病の心臓病が悪化、若干19才の早すぎる死であった。翌年に刊行された神謡集は、独・伊・エスペラント語にも翻訳されパリの文壇でも紹介された。弟の真志保は北海道大学教授、文学博士で言語学者である。

 ここでは稿本との比較をしてみた。
◆「神謡集原稿」(知里幸恵ノート)

 『あたりに 降るふる 銀の水 あたりに 降る降る 金の水・・』といふ歌をうたひながら 川に沿ふて アイヌ村の方へとまゐりました.そうしてアイヌ村に着きました
 北の大きな村.廣々とした村を見ますと.昔の貧乏者が今は金持になつてゐて 昔のニシパが 今はヱンクルになつてゐるやうです。
◆「アイヌ神謡集」
 「銀の滴降る降るまはりに、金の滴降る降るまはりに。」と云ふ歌を私は歌ひながら 流に沿つて下り、人間の村の上を 通りながら下を眺めると 昔の貧乏人が今お金持ちになつてゐて、昔のお金持が今の貧乏人になつてゐる様です。

 ・・・奏でるかのような、美しい旋律である。 

 第6回文学エッセイ


                               

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