さぽろぐ

文化・芸能・学術  |札幌市手稲区

ログインヘルプ


2014年10月13日

缶詰の話し5


昭和初頭、カニ工船最盛期の頃 道内缶詰小史 ~工船蟹漁業の勃興 カニの工船化は、サケ・マスの沖取り式に先んじるもので、それは大正に入ってカニ缶詰工場が乱立して北海道と樺太周辺ではカニ資源が枯渇し、生産は大正5~6年頃を最盛期に減少して、大正6年には、日魯漁業がカムチャッカ沖合の母船上で煮熟したカニを運搬船で千島へ運び、缶詰製造を試みたが、このときの成績は芳しくなかった。カニ工船の嚆矢は、大正3年から農商務省水産講習所がカムチャッカ西岸キクチク沖合において、練習船・雲鷹丸(うんようまる)による蟹底刺網の実習を行いながら缶詰を試作したのに始まる。大正8年には松崎隆一(後述)が雲鷹丸に乗船して沿海州沖合で3馬力の電動機、ハンドシーマー、竪型レトルトなどを備えた本格的な加工ラインによる缶詰製造に成功したが、当時は、加工において淡水を用いるものとされたために生産は限られていた。大正9年にロシア領内にカニ漁区が開設され、富山県水産講習所の練習船・呉羽丸は、遠洋漁業奨励金の交付を受けてカムチャッカ西岸沖に出漁し、このとき海水による製造試験を試みてむしろ淡水よりも肉質、色沢とも良好の結果を得て、翌10年の実習操業では8打入1,260函の生産を見た。同年、これに触発された函館の和島貞二(明治39年に独立して樺太漁業に着手する。大正3年には千島でサケ・マス、タラ漁に着業し、同5年に幌蓆島にカニ缶詰工場を設けて北千島水産組合が設立
されると初代組合長となった。)が堤清六の斡旋による融資を受け、汽船喜多丸と帆船喜久丸に製造設備を取り付けて沿海州のセントウラジミル湾から間宮海峡にかけての操業で2,758函の生産を上げたことは、工船蟹漁業が非常に有望なことを示した。こうして着業するカニ工船は、2年後の大正12年には11名17隻(練習船含む)ともなり、翌年には2,000㌧級の母船が現れるなど、わかに勃興した工船蟹漁業は、激しい漁獲競争に陥った。大正12年には工船蟹漁業取締規則が制定されて工船蟹漁業水産組合が発足するなど、いよいよ同14年には価格調整を目的に蟹缶詰共同販売株式会社の設立となり、過当競争による会社の合併、船団の統合・統制を繰り返す中で昭和2~5年をピークに戦時の中断を経て、昭和49年に南カムチャッカにおけるタラバカニの母船式操業が禁止されるまで、本国における主要な遠洋漁業となった。“サケの日魯”に対し“カニの日水”と呼ばれていた。 時事新報 大正14年11月 (略) 有望なる蟹缶詰輸出 茲数年来、英米を初め濠洲方面の市場に於て頓に人気を博するに至った本邦製蟹缶詰が本年中約二十万函(此価格約九百万円)見当の輸出を告げんとしつつあるは貿易改善の声盛んなる今日特に注目すべき現象である今試みに過去数年間に於ける生産並に輸出額を表示すれば左の如し(略) 即ち大体に於て連年増加の歩調を辿りつつある中にも本年に入り急激なる増加の跡を示して居るのは頗る人意を強くするに足る所である。 世界市場の需給状態 今世界に於ける蟹缶詰の需給状態を一瞥するに我国は供給上に於て殆んど独占的立場に在り、他は僅に北米アラスカの沿岸に於ける一ヶ年数千函の少量粗悪なる生産があるに過ぎぬ、故に仮に蟹缶詰が今後益外人間に賞味珍重せらるるに於て、輸出品目として一層重要なる地位を占むるに至るべき期待がある。而して本年度に於ける我生産の概表は左の如く(略)此中工船と称するは勘察加沿海に於て漁獲し船中にて製造するものである(中略)右表(略)の如く邦製の鮭缶詰が専ら英国市場に於て好評を博しつつあるに反し、蟹缶詰は其大部を米国に向けて輸出するものであるが最近英米人は蟹缶詰を以て缶詰中の美味の王として「ウワンダフル」の賛辞を呈して居る。 製造販売方法の改善 前表(略)に示した通り従来十万乃至二十万函見当の生産額中、輸出は約其半数に該当して居るが而も其輸出価格の点に至っては常に乱高下の状態に置かれ生産者側なる漁業会社方面の不安は勿論、問屋並に海外の取引商に於ても決して安心は出来得ぬ有様であったが此状勢は昨十三度間に於て特に甚しく、輸出の総額が最高のレコードを作った一面には市場価格の波瀾も極めて大きく、従って生産業者にして打撃を蒙れる向も決して少くなかった、蓋し其主因は第一製造業者の資力乏しくして、主として輸出業者並に外商の手より資金を仰ぐこと多きため常に其意思に従うを余儀なくせられ、従って価格の変動は其手によって左右せらるる事情あり、第二に個々の生産業者が互に連絡をとらざる為組織的行動不可能にして仲介の内外商人に足許を見られ、不利なる取引を為す場合が多かった。(後略)

第367号 缶詰のお話し      北海道の歴史,北海道の文化,北海道文化財保護協会,http://turiyamafumi.kitaguni.tv/  

Posted by 釣山 史 at 14:35Comments(0)北海道の歴史